よくネットや雑誌などで筋トレをしていると有酸素運動は筋肉を減らすから筋肉肥大を目指すならやってはいけないと書かれています。
しかしどの程度(時間や強度)の有酸素運動をすると筋肉が減少するのかまでは明確に書かれていません。
私は筋トレとともに日帰り登山が好きなので時々山へ行き、調子が良ければ下山時は走ったりします。
運動は筋肉を分解する
登山自身有酸素運動なので筋持久力と心肺機能を高める運動となり、さらにある程度の「下半身の」筋肉肥大、筋力アップが期待できますが、筋トレに比べると所詮自重(体重+ザックの重さ)で動作パターンも限られているので筋肉肥大は期待できません。
登山で鍛えられるのは筋持久力です。
これは登山だけでなく有酸素運動の宿命です。よくジョギングで下半身に筋肉がついたという人がいますがもちろんある程度の筋肉はつきますが体が引き締まることはあってもそれ以上の筋肉はつかないのです。
逆に筋トレではHIITなどのインターバルトレーニングでもしない限り心肺機能のアップは有酸素運動ほど期待できません。
筋トレをするものにとっても心肺機能が高ければより高密度な筋トレが出来るのです。
しかし、筋肉のみならずすべての細胞は日々分解と合成を繰り返しています。
筋肉が分解するとき:空腹時、運動時、睡眠時
筋肉が合成するとき:食後(栄養補給後)
筋肉はこのように分解と合成を日々行っているのです。
それではここで簡単に筋肉の分解のメカニズムを紹介致します。
筋肉分解のメカニズム
有酸素運動のエネリギー源:糖質と脂質
無酸素運動のエネルギー源:糖質
運動をする
↓
エネルギーとして体内の糖質を使用
↓
糖質(筋グリコーゲン*や血中グルコース)が枯渇する
↓
エネルギー源として脂質(脂肪酸)を使用**
↓
同時期に血中にあるアミノ酸を使用
↓
血中のアミノ酸濃度の低下
↓
筋肉中のタンパク質を利用(筋肉の分解)
↓
血中アミノ酸濃度の上昇
*)筋グリコーゲンは筋肉に溜め込んでいるグリコーゲン(多数のブドウ糖が連結した物質)で他に肝臓にもグリコーゲンが貯蔵され肝グリコーゲンと言われています。
どちらもその数量は少なく合計でも数百グラムと言われています。特に肝グリコーゲンは100g前後です。
**)脂質は主に血中の遊離脂肪酸がエネルギーとして使われますが、脂肪細胞の中性脂肪もやがて下記のように使われます。
中性脂肪
↓
脂肪酸とモノグリセリドに分解
↓
モノグリセリドを糖質に変換(糖新生)
↓
エネルギーとなる
脂肪燃焼システムに関しては『中高年太りのお腹は腹筋では引っ込まない』を参照願います。
筋グリコーゲンのエネルギー
ここで重要なのが筋グリコーゲンです。筋肉に含まれるグリコーゲンでその数量は400gとも600gとも言われています。しかしアスリートの中には1,000gを超えて貯蔵している人もいるようでかなり個人差があります。
この筋グリコーゲンが枯渇すると疲労を覚え持久力が落ちてきて筋肉もこのあたりで分解し始めるというのが一般的な見方です。
そのためできるだけ筋肉にグリコーゲンを貯蔵することが持久力を高める重要な要素になります。
それでは筋グリコーゲンが枯渇するためにはどの程度の運動が必要になるのでしょうか。
上記から筋グリコーゲンを400gとすると、糖質のカロリーは4kcal/gですからその総カロリーは1,600kcalとなります。
それでは1,600kcalを消費するためにはどの程度の運動が必要なのでしょうか。
例えば、ジョギングを考えると
消費カロリーkcal=(メッツ-1) x 体重kg x 運動時間h x 1.05
で計算すると、軽いジョギングは7メッツになりますから、体重60kg、1時間では
消費カロリー=(7-1)x60kgx1hx1.05=378kcalとなります。
1,600kcalを消費するには4時間14分ジョギングしなければなりません。
毎日4時間14分もジョギングする人はそういないでしょう。
つまりアスリートでない限りは有酸素運動で1,600kcaも消費しないということです。
これを私の日帰り登山に当てはめると通常6時間半程の山行なのでこれを上記に当てはめると3,000kcal程になります。
つまり筋グリコーゲンは完全に枯渇してしまっている状態です。したがって筋肉の分解が進行している可能性が十分あるわけです。
もちろんそれをできるだけ抑制するように途中で小休憩を取り、おにぎり、菓子パン、ゆで卵、アミノ酸ゼリーを摂取しているのです。
食事は登山前の朝食(おにぎり、菓子パン)と山中での昼食(ゆで卵、おにぎり)及び行動食(アミノ酸ゼリーなど)。
それでもせいぜい1,200kcal程度でしょうから1,800kcalはマイナスになっているのです。
登山中筋肉を分解しタンパク質の糖新生がすでに起こっているはずです。
しかし血中の糖質や筋グリコーゲンが枯渇すると筋肉中のタンパク質だけでなく脂質も分解しますから1,800kcal分が全て筋肉の分解に直結するわけではありません。
脂質やタンパク質による糖新生で作られる糖の量にも限りがあるからです。
注意)
1)肝グリコーゲンは18〜24時間で枯渇する特性があります。血糖値を維持するためにこの肝グリコーゲンが使われるのでグリコーゲンの補給はとても重要な要素になります。
2)肝グリコーゲンはグルコース(ブドウ糖)に分解して血中に放出しますが、筋グリコーゲンはグルコースに分解できず、筋肉中で全て消費されます。
3)筋トレでのカロリー消費量は有酸素運動に比べて少なくなりますので筋グリコーゲンの枯渇の心配は無用です。ただ筋トレ後の激しい有酸素運動では筋グリコーゲンの枯渇の可能性はあります。
ケトン体回路で脂肪酸をケトン体に変換
そこで先述した脂肪の燃焼システムで中性脂肪は脂肪酸とモノグリセリドに分解されるとあります。
長時間の軽度の運動では中性脂肪は分解後脂肪酸をメインに燃焼するようになります。
脂肪酸の70%は筋肉などで使用され、残り30%は肝臓へ運ばれます。
肝臓ではこの脂肪酸はエネルギーとして使われますが残りはケトン体を作ります。
ケトン体は多くの細胞のエネルギー源になり特に腎臓、心臓、脳で多く使われます。
このような回路をケトン体回路もしくはケトジェニック回路と言います。
私の日帰り登山でも帰宅後の夕食では1,000kcal程度は補給しているのでカロリー計算では800kcalのロスですが、その分は脂肪酸の燃焼とこのケトン体回路が働いて中性脂肪が分解されているのかもしれません。ケトン体独特の体臭がする時があります。
注意)
1)ケトン体回路を作るには糖質制限と高タンパク質な栄養が必要です。タンパク質の摂取が少ないと筋肉の分解が起こります。
2)ケトン体はアセトン酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸を言い、このアセトンが呼気で排出されると甘酸っぱいよな匂い(果物が腐ったような匂い)を出します。人によってはアンモニア臭。
また汗からも排出される場合があり体臭がきついと言われる場合もあるのです。
重要な運動後の栄養補給
以上から運動エネルギー源には糖質(血中モノグリセリド、筋グリコーゲン)、脂質(中性脂肪からの脂肪酸)、タンパク質(血中アミノ酸、筋肉からのアミノ酸)があることがわかります。
また長時間の有酸素運動で筋グリコーゲンが枯渇しても体内の中性脂肪をうまく活用できればエネルギー源には困らないというのがケトジェニックの信望者の言葉です。
私はある程度の糖質も必要と思っているのでケトジェニックの信望者ではありませんが夕食の主食(ご飯、麺類、パン)はもう20年以上摂取していません。
筋トレ後の筋肉の合成は48時間続くと言われています。その間にタンパク質を中心にした十分な栄養補給をすれば良いのです。
筋肉は日々分解と合成を繰り返しているのですから高タンパク質を意識した栄養補給をきちんとすれば筋グリコーゲンが枯渇して筋肉が分解することを恐れず有酸素運動も併用できるのです。
そうすれば心肺機能もアップし筋トレでもその効果を有効に使えます。
特に私のような心肺機能が弱い人間にとっては。
タンパク質は体重1kgあたり2g摂りましょう。例えば、体重60kgであれば60x2g=120g/日です。これを3〜5分割して摂取するのです。
また登山へ行った時はタンパク質とともにグリコーゲンを筋肉に貯蔵するために糖質も意識的に摂りましょう。
この記事へのコメントはありません。