映画

筒井義隆原作、長塚京三主演の映画「敵」は高齢者の末期を表現している

アイキャッチ画像:映画.com

兼ねてよりみようと思っていた邦画「敵」を吉祥寺のアップリングで観てきました。

超久しぶりで観る長塚京三主演の映画です。

2024年の東京国際映画祭にも出品されいくつか賞を取っています。

超ザックリしたあらすじ

長らく大学で仏文科の教鞭を取っていた渡辺儀助77歳は妻に先立たれ子供もいないため祖父の残した古い一戸建ての家に1人で住んでいます。

毎日自炊、洗濯、掃除をして時折教え子から筆分の仕事を依頼されて暮らす年金生活者です。

一見平穏な生活をしているように見えた儀助はある日から書斎のパソコンから正体不明のメールを受け取ります。「敵がやってくる。」という文言です。

それ以来おかしな夢(幻想)を見始め現実との境界線がぼやけてきます。

しかしそのおかしな夢というのは儀助の心の奥深くに眠っていた過去(人に知られたくない事実)でした。

共演は亡くなった妻役に黒沢あすか、教え子役に滝内公美、バーで知り合った大学生役に河合優実がいます。

原作は筒井康隆、監督は吉田大八。

鑑賞後の感想

まず原作者の筒井康隆は私の好きな作家の1人でしたがこの「敵」という作品は知りませんでした。過去筒井康隆の原作で映画化されたのは「ジャズ大名」だったと思います。私も観ましたが結構面白かった記憶がありますね。

主演の長塚京三は確かフランスに留学した経験があったはず。ソルボンヌ大学だったかな。なんだか因縁がありそうな。

長塚は大学教授っぽく見えるのですが長身のため古い一軒家の中では全てが小さく窮屈そう。

前半は1人暮らしの年金生活者の模範生のような生活ですがやがて長く1人暮らしをしてきた高齢者のせいか精神面に「異常」をきたします。ここら辺から筒井康隆の世界に入っていきます。

「異常」と言っても儀助の忘れていた過去の自己の内面が夢(幻想)として現れてきたのです。

ただし最後の「敵」らしきものが現れてくるのですが私にははっきりとした正体はわかりませんでした。

ひょっとしたら小説には書かれているのかもしれません。

追記:鑑賞後の当夜私は睡眠中にこの映画の夢を見て戦争中のような「敵」らしきものは、第二次対戦中儀助がまだ母親のお腹にいるときの母親の体験を儀助が記憶しているのです。そして真の敵とは儀助の「老化」そして「死」なのです。睡眠中の夢は頭の中を整理するために見るとも言われていますが今回の夢はまさにその通りだと思いました。

気になったのは教え子役の滝内公美。演技が上手いと言った方がいいのかもしれませんが、美形でもないのに妙に色気がありました。

またバーで知り合った大学生役の河合優実は髪型のせいか若い頃の松田聖子に似ていました。

さらに亡くなった妻役は初めは樋口可南子かと思っていましたが後で黒沢あすかと知り驚きました。

黒沢あすかは園子温監督の「冷たい熱帯魚」に主演の神楽坂恵(のち園子監督と結婚)とともにエキセントリックな役で出演していた女優さんです。もっとふっくらしていたはずなのに顔が変わったなと思っていたらもう結構な年齢になったんですね。

この映画は基本的に現在の日本の高齢社会の一端を表しているとも言えるでしょう。そのせいか東京都知事賞まで受賞しています。

終わりに

吉祥寺のアップリングは久しぶりです。小さなスタジオがいくつかあるミニシアターですがゆったりして鑑賞できました。

客層も若い世代から高齢者まで様々。

最後は自分もああいう精神状態になるのかなと思いつつ、久しぶりで観た俳優、女優がいて懐かしく思いました。

また筒井康隆の小説を読んでみようかな。

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